Fuck It’s Cold:
日本の寒い冬を乗り切るのためのビール
このビールを最初に作ったのは、特に寒く雪が何回も降った2021年の冬でした。ダブルIPA(DIPA)ほど冬にピッタリなIPAはない!と思ってシングルバッチでまず作ってみたのですが、飛ぶように売れてすぐ完売したので、今年はダブルバッチで作ることにしました。
ビールの名前について。日本では『fuck』は英語で一番攻撃的な言葉だと思われているかもしれませんが、もっと攻撃的な言葉もたくさんあります。(ここには書けないので、知りたい方はお会いできた時にでも...)確かに『fuck』は長い歴史の中ではタブーだったかもしれませんが、この数十年でオーストラリアなどでは大きく変わってきました。私が法学部にいた時に読んだ判例の中でも「日常的に使われる言葉になったため、今の常識基準では攻撃的ではない」¹と書かれていたほどです。
複雑な英語という言語によくあることですが、『fuck』も前後の状況と内容によっては意味と言った人の意図が大きく違ってきます。例えば私の元上司は職場でよく「fucking great work」と言っていましたが、それには二つの意味がありました。取引先との交渉がうまくいかなかったとき、自分とチームに対しての失望を表す皮肉としての「fucking great work…」、またある時は難しい交渉が成立した時に、チームと一緒に喜び、達成感を表す「fucking great work!」です。もちろん『fuck』には攻撃的な意味も今でもあります。(相手によっては不快感を与えることがあるので、英語の初級者は充分気を付けてください。)
とはいえ、感情や態度を文学的に表現でき、溜まったストレスを解き放つ精神的浄化作用をもち、またジョークにも使えるユーモラスな言葉でもあります。僕からすれば日本人は”fuck”なしにどうやってコミュニケーションをしているのだろうと思うほどに、とても便利な言葉なのです。
私は南オーストラリア州のアデレードという街で育ちました。夏は長く暑く平均36℃以上、冬は短く平均12℃ぐらいでそんなに寒くありませんでした。今は一年を通して日本に住んでいますが、冬は乳首が痛くなるほど寒いです。僕が実際に「Fuck It’s Cold!」というときには攻撃的、文化的、精神の浄化作用三つの組み合わせとなっています。寒くしすぎる天気の神様に対しての攻撃(八つ当たりとも言う)、どのぐらい寒いと思っているかを表した文学的表現、そして精神の浄化作用という店では、寒さによる乳首の痛みストレスからの解放です。このビールの名前は、ただユーモラスにちょっと大げさに日本の「くっそ寒い!」を訳した「Fuck It's Cold」です。
このビールはオーストラリア、ドイツ、UKのモルトを組み合わせて作りました。僕たちのベースモルト、オーストラリア産クーパーズペールモルトは、糖化力と抽出力が高い一方でDIPAとしては少し色が明るすぎるのと、ボディにパンチが足りませんでした。そこでより力強いドイツ産ペールモルトのIREKSと組み合わせました。次に小麦麦芽を加えてビールの口当たりを良くし、泡の安定性を高めました。最後にクリスタルモルトで色に深み、カラメルの香りと味を付け足しました。
このビールを作るには、目標の糖化率とアルコール度数を出すために、ダブルマッシング(糖化工程)必要でした。このために醸造日に追加の工程が必要となります。麦汁ができたら2度目の粉砕麦芽を更に追加し、マッシングを2回やります。これは僕たちの現醸造所の制限ですが、醸造チームはもう慣れており、工程の多いダブルマッシュ醸造日でもとてもスムーズに時間通りに進んでいます。
このビールを作るとき、僕たち自身が冬に飲みたいDIPAを、と考えていました。ホップにはシムコー、ストラータ、モザイク、ネルソンソーヴィンを選びました。シムコーとストラータは一回目の麦汁ホッピングに追加され、苦味とホップの複雑さを出しました。シムコーは優れたビターリングホップですが、工程の後半で使用すると、核果、松、柑橘類のアロマも得られるため、とてもダンクなホップです。しかしストラータはこれを超える僕たちのお気に入りのダンクなホップボムです。『ダンク』という言葉を敢えて日本語で説明するのはとても難しいので、別のコラムで取り上げる予定です。とりあえず今は、ホップが生み出す素晴らしく刺激的で素朴でジューシーなフレーバーとアロマだと思っておいてください。
シムコーとストラータをボイル(煮沸工程)を通して使い、ボイル終了時にモザイクとネルソンソーヴィンを投入しました。このビールの名前が示すように、4つのホップ全てでダブルドライ ホップをしています。モザイクはジューシーなトロピカルフルーツ感をもたらし、ネルソンソーヴィンは白ワインのような洗練されたフルーティーさを付け加えます。このビールには、1リットルあたり合計15gのホップが使用されています。もっと多量のホップを使うブルワリーは他にもありますが、モルトとダンクの最適なバランスを保つにはこれで十分だと思います。
昨年作ったこのビールは少しホップ寄りだったので、今年は色が少し濃く、クリスタルモルトを追加したことでカラメルの風味が出ていることに気付くかもしれません。以下はFuck It's Cold の公式仕様、醸造者のメモとテイスティングノートです。僕の初めてのコラムを締めくくるにあたり、このビールを作るために大きな努力してくれた醸造チームのメンバーに感謝したいと思います。また、この冬も再び僕たちがこのビールを作る理由を与えてくださった(昨年購入し、飲んでくださった)お客様にも感謝いたします。
皆様がこのビールを楽しんでくれることを心から願っています。自分で言うのもアレですが、僕はfucking deliciousと思います!
ショーン
¹Horton v Rowbottom (1993) A Crim R 381 (Australia)Official Specifications:
- Beer Name: Fuck It’s Cold DDH DIPA
- Batch No.: 324.BFUC.2
- Brew Date: 2022/12/2
- Packaged Date: 2023/1/5
- Released Date: 2023/1/9
- Alc: 9.0%
- IBU: 70
- EBC: 20
- Malt & Grain: Pale, Wheat, Carapils, Melanoidin, Crystal
- Hops: Simcoe, Strata, Mosaic, Nelson Sauvin
- Yeast: American Ale
- CO2: 2.6 Volumes
Brewteam’s Notes:
真冬に映える朝焼けを思わせるコッパー色に、オフホワイトの豊かな泡が美しい。柑橘、トロピカル、ダンクの鮮烈なホップ香に、カラメルのモルト香が合わさり芳醇に。アロマから期待するとおりのフレーバーに加え、凝縮されたフルーツの甘味があり、さらに松の風味で爽やか。ホップの苦味はビアスタイル (American Double IPA) らしい数値 (IBU 70) ながら、麦芽由来のボディ感でマイルドに。濃いめの味わいで余韻が長く楽しめる。Brewteam’s Tasting Notes (English):
- Appearance
- Colour: Copper
- Clarity: Slight Haze
- Head: Fluffy
- Carbonation: Medium
- Aroma
- Alcohol: Mild
- Hops: Citrus, Tropical, Dank
- Malt: Caramel
- Flavour & Aftertaste
- Alcohol: Noticeable
- Hops: Citrus, Pine, Tropical, Dank
- Bitterness: Moderate
- Malt: Caramel, Pruny
- Sweetness: Medium-high
- Palate
- Astringency: Low
- Body: Mouth-coating
- Length: Long